茶の木の育たない中川原

犬上郡多賀町中川原(いぬがみぐんたがちょうなかがわら)のお話


お日さまが、かんかんてってとてもあつい日でした。ひとりのおぼうさんが、おきょうをとなえながら中川原の村を通りかかりました。おなかがへって足もふらふらしています。目もうるんでいます。ふと見ると、一けんの家が見えてきました。おぼうさんは急に元気が出てきてその家まで近づいてみました。そして、

「どうぞ、お米を少しわけてください。」

とたのみました。でもその家のおばあさんは、

「ごらんのように、うちには、お米なんてありませんよ。」

と、いってことわりました。長いたびをつづけておられるおぼうさんは、とてものどがかわいていたので、ひたいにはあせをいっぱいかいておられました。

「では、まことにもうしわけありませんが、お茶を一ぱいいただけませんか。」

と、おねがいしました。おばあさんは、一ぱいのおちゃさえもおぼうさんにあげるのがおしくなり、

「おあいにくさま。今、お茶もないのでほかの村に回っておくれ。」

と、ことわりました。

しゅ行をつんだおぼうさんでしたので、おばあさんの家にお茶がいっぱいあることをよくごぞんじでした。おぼうさんは、またとぼとぼともと来た道を歩きながら、首をかしげて考えておられました。

「お茶はあってものまないのかこの村は。へんな村だな。よし、この村にはお茶はいらないんだな。」と、つぶやきました。

そして、おぼうさんの力でお茶の木を育たないようにされました。だから、この村には茶の木が育たないのだそうです。きっと、おぼうさんのおいかりが天にとどいてこの中川原に茶の木をそだたないようにされたのかもしれませんね。

(「多賀町の民話集」による)

参考

猛暑(もうしょ)の夏のある日のこと、中川原の宝福寺(ほうふくじ)をたずねました。住職(じゅうしょく)の星居さんは、むかしから、言い伝えられている話を数多く聞かせてくださいました。話のひとつひとつに、むかしの人々の願いやくらしの知恵(ちえ)を感じとることができました。

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